今回インタビューさせていただいた本校整形靴科7期卒業生の新井宏明さんは、義肢装具関連の会社で整形靴製作技術を学んだ後、京都北山に工房を立ち上げ、お客様の気持ちに寄り添いながらその期待を越える靴を作っている。
「利用者の方に“履きたい”と思ってもらえる靴を作りたい」そんな新井さんの整形靴に捧げる情熱とその生き方を綴る。
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学生時代から古着に夢中になり、大学中退後、数年間は古着屋で働いていた。整形靴科に入学したのは、24歳の頃。
このままの生活で良いのか、ぼんやり疑問を持ち始めた頃、 「何か手に職をつけたい、技術を身につけたい。」 という、言ってしまえばこれぐらいの気持ちで見つけた整形靴科。 元々、古着の中でも靴が好きだったこともあるが、ファッションだけでなく「医療の知識を基に製作していくこと」にその当時はだが、何となくしっくりときたことを憶えている。
入学した後は、その世界にどんどん魅了されていった。 三田校には、実際に足の疾患を持つモデルさんが来て下さり、整形靴技術者を目指す自分たちのために、時間を割いて下さっている。モデルさんとのやりとりを通じて、「整形靴を必要としている方々はたくさんいる」そう強く感じた。
正直、三田校に入った時は、整形靴技術者としての明確なビジョンはなかった。「手に職をつけよう」ただ、それだけだった。
今でも、この見た目からか「本当は普通のお洒落な紳士靴を作りたいんじゃないの?」と言われる事がある。もちろん、靴は好きなので興味はある。ただ、普通の紳士靴なら三田校の整形靴科ではなくとも学び、作る事ができる。日本に三田校しかない、この整形靴科を出た自分たちが整形靴をやらなかったら「誰が整形靴を必要としている人達の靴を作るのだろうか」と思う。
卒業後は、義肢装具会社に就職し、利用者さんに実際にお会いし整形靴を作っていた。 忘れられないのは、病気による足の変形で既製靴が履けない方。完成した整形靴を履いていただいた時、目の前で涙しながら喜んでいただいた姿。 整形靴はただの靴ではない、利用者さんらの「心にも寄り添うことができるモノ」だと強く感じた瞬間だった。
利用者さんやご家族が望むものは、突拍子もないオシャレなものではなく、「普通の靴」であることが多い。装具として製作する場合の整形靴は、数ある装具の中でも、利用者さんのデザインの側面での希望に応えることのできるモノであると思う。
前職からずっと整形靴を作らせてもらっている方々がいる。その方々に整形靴をお作りし、履いていただいた時の表情、言葉。
「お洒落することを諦めなくてすむ。」、「普通の子と同じ普通の靴だ。」、「最近、靴箱からどの靴を履こうか悩む。」
たくさんの心に残る言葉、思いをいただいた。
僕のやらなければならないこと、やりたいことはやはりこれだと思った。 僕たちを必要としてくれている人たちがいる。
利用者さんの身体だけでなく、心に寄り添いながら、僕はこの世界で生きていこうと思う。
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「7th seed」
この店名には、実は新井さんの整形靴に対する熱い想いが込められている。
三田校整形靴科の7期生から「7th」
「seed」には、整形靴がこれからの日本で花咲かせるようにという想いが。
これからも新井さんのご活躍を心よりお祈りしております。