地域包括支援センターでの虐待対応から考える、支援者としてのあり方
みなさん、こんにちは。社会福祉士科教員の下林です。
神戸医療福祉専門学校中央校の社会福祉士科には、これまでの人生経験や家族的ケア経験、あるいは社会人としての対人経験を活かして、新しい一歩を踏み出そうとされている多様なバックグラウンドを持つ方々が、お互いを尊重し合いながらアットホームな環境で学んでいます。
今回は、私がかつて地域包括支援センター(神戸市での名称:あんしんすこやかセンター)で勤務していた頃の、深く心に残っている相談援助の現場での出来事をお話ししたいと思います。このエピソードを通して、社会福祉士という専門職が担う社会的役割と、その現場にある「葛藤」や「やりがい」のリアルな温度感を感じていただければ幸いです。

◆ 高齢者の安心を支える土台:「権利擁護」という大切な社会福祉士の役割
地域包括支援センターは、「高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう支える」ことを目的とした、地域になくてはならない相談窓口です。ここでは、保健師・主任介護支援専門員・社会福祉士の3職種が密接に連携し、日々さまざまな相談に対応しています。
その中で、社会福祉士の役割として特に重い責任を伴うのが「権利擁護」です。
高齢者の方々が安心して暮らし続けるためには、日々の生活支援や身体的なケアだけでなく、その人の「権利」や「尊厳」が守られていることが欠かせません。虐待への対応や、財産を守るための支援、成年後見制度の活用などを通して、一人ひとりがその人らしい生活を送れるよう支えること。それは決して目立つ派手な仕事ではありませんが、地域社会の安心を底から支える、なくてはならない大切な土台です。
そして、その中でも「虐待対応」は、当事者だけでなくご家族の人生にも深く踏み込むため、極めて繊細な判断と神経を使う支援の一つです。
◆ 制度の壁と家族の限界:葛藤の中から生じた「家に帰りたくない」という切実な声
私が関わったある男性のケースです。その方は若い頃に不慮の事故に遭い、これまで障害福祉サービスを利用しながらご自宅で生活されていました。しかし、65歳を迎えられたことで、法律の規定により「介護保険サービス」へと移行することになりました。
この制度の移行期には、時として大きな壁が生じます。制度の違いにより、これまでと同じサービス量を確保することが難しくなったり、自己負担額などの費用面で変化が生じたりしたのです。
長年連れ添い、身を粉にして介護をしてこられた奥様にとって、この変化は到底受け入れがたいものでした。奥様は、行き場のない強い不満と怒りを何度も私たちに訴えられました。これまでの介護疲れに、制度変更のストレスが重なり、ご家族全体が限界を迎えていたのだと思います。
そんなギリギリの状況の中で、ご本人がデイサービス利用中に、ぽつりと本音を漏らされました。
「妻と離れたい。もう家に帰りたくない」
詳しく理由を伺うと、家ではずっと怒鳴られており、時に暴言や叩かれるといった行為があるとのことでした。私はご本人の意向を何度も丁寧に確認しましたが、「離れて暮らしたい」という強いご希望が変わることはありませんでした。
◆ 正解が見えない中で最優先すべきこと:すべての関係者に配慮する相談援助の難しさ
ご本人の安全と「自己決定の尊重」を最優先に考え、私たちは虐待対応として、神戸市の担当者や包括の職員と迅速に連携を開始しました。奥様と離れた安全な環境を確保するため、受け入れ先となる施設を調整し、移動の準備を整えました。
当日は万が一の事態に備え、警察の方にも立ち会っていただき、ご本人を施設へとご案内しました。
その後、突然の引き離しに納得のいかない奥様は、何度も市役所に足を運ばれたり、電話をされたりしていました。しかし、最終的にご本人の「離れたい」という真意を知ったとき、奥様は大声で泣かれていたと聞きました。
虐待対応は、決して「悪者を退治する」といった単純な図式ではありません。長年、介護を引き受けてこられた奥様のこれまでの献身や、制度変更によって追い詰められてしまった背景を思うと、私の胸も締め付けられるようでした。結果として、奥様に非常に大きな精神的負担を与える形になってしまったからです。
それでも、どのような理由があっても、尊厳を傷つける行為は看過できません。当事者の命と安全、引いては「自分らしく生きたい」という尊厳を守るために動くことこそが、社会福祉士のブレてはならない原点なのです。
◆ 葛藤を乗り越え「尊厳」を守る:あなたの人生経験が、誰かの未来を支える強みになる
私たちは、当事者の男性を保護して終わりにはしませんでした。残された奥様への心のケアや生活支援も含め、約1年間にわたり奥様のフォローを続け、関わりを持ち続けました。
時間の経過とともに、奥様も少しずつ張り詰めていた気持ちを整理され、新しいお一人の生活に向き合い、徐々に前向きな表情を見せてくださるようになりました。その姿を見届けられたことが、支援者としての私にとって、何よりの救いであり、大きなやりがいでもありました。
福祉の現場で出会う課題には、白黒はっきりつけられないグレーな領域がたくさんあります。多くの葛藤を伴い、悩むことも少なくありません。しかし、だからこそ、誰かの人生に誠実に向き合った分だけ、お互いの人生が豊かになる温かさがあります。
あなたがこれまでの人生で培ってきた、家族へのケア経験、人間関係の調整力、あるいは社会の波にもまれる中で培った共感力は、すべて社会福祉士としての「強力な武器(専門性)」に昇華させることができます。
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